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2017年5月号 左側下顎部の激痛
4.左側下顎骨骨髄炎

処置および経過:初診時、うつ病の既往や発症前後のエピソードと、他覚所見に見合わない身体症状を呈していることから、前医と同様にうつ病の身体症状による歯痛の可能性を考え、中断となっていた心療内科にコンサルテーションを行った。同時に、診査時に歯原性のあきらかな所見はなかったが、両側顎下リンパ節の腫大と左側オトガイ部の知覚鈍麻を認めたことから、原因疾患を検索するべく血液検査を実施し、結果的に炎症反応を確認するに至った。通院開始1週間後には、左下8部に歯肉腫脹と排膿を認め、左側下顎智歯周囲炎からの下顎骨骨髄炎と診断し、抗菌薬の内服を開始した。帯状疱疹は、血液検査で否定された。

  CT画像において、左下78根尖部付近に炎症反応によると思われる骨破壊像を確認した(図3)。骨シンチグラフィーにて左側下顎骨全体に集積を認め、広範囲の下顎骨骨髄炎であることが判明した(図4)。顎骨中心性癌との鑑別のため、排膿部からの細胞診を実施し、除外診断を行った。その後、入院下で抗菌薬の静脈内投与を行い、症状は軽快した。

解説:非歯原性歯痛は、(1)筋・筋膜性歯痛、(2)神経障害性歯痛(発作性:三叉神経痛、持続性:帯状疱疹性神経痛など)、(3)神経血管性歯痛、(4)上顎洞性歯痛、(5)心臓性歯痛、(6)精神疾患または心理的社会要因による歯痛、(7)特発性歯痛、(8)その他のさまざまな疾患により生じる歯痛に分類される。

  本症例では、初診時の歯にあきらかな異常所見を認めず、うつ病の既往や発症、受診時のエピソードなどから、非歯原性歯痛を疑う状況であった。定性感覚検査にて、左側オトガイ部に知覚鈍麻を認めたことなどから身体疾患の可能性が示唆され、加療を進めていく過程で、最終的に智歯周囲炎からの下顎骨骨髄炎の診断に至った。本症例は原因歯の特定が困難であったことと、うつ病を併発していたことから診断に苦慮した。精神疾患や心理的社会要因による歯痛が強く疑われた場合でも、各種診査を怠らずに実施することの重要性を再確認した症例であった。

図3 CT画像
図3 CT画像
図4 骨シンチグラフィー
図4 骨シンチグラフィー


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