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2017年7月号 原因不明の鼻血と上唇の傷
3.局所麻酔による合併症

 まず、子どもへの問診は難しく、たとえば親に叱られると思うと、正確な返答(情報)が得られない。本症の男児も後ろめたさがあるのか、「わからない、知らない」といった返答のみであった。しかし、状況から最も疑われるのは、局所麻酔による合併症(あるいは続発症)であり、創傷処置にて軽快した(図2)。 転倒などによる外傷を必ずしも否定できないが、上唇の擦過傷が限局的であり、一元的にはどのような状況で受傷したかの推測が難しい。

 近年、虐待や育児放棄により、歯の脱落や破折、口腔軟組織の損傷、あるいはう蝕の多発などの事例が報告されている。歯科医療機関は、このような兆候を早期に発見しやすい立場にあり、この視点からの診察も重要である。子どもの乏しい表情や、保護者の疲弊感が感じ取れる場合もある。虐待による受傷部位は、直接見える体表面ではなく、衣服に隠れる部位や口の中なので、「唇以外に血は出ていないかな」などと話しかけながら、さりげなく袖や襟を捲って診察を行う。本症では他部位への外傷を認めず、子どもと母親の雰囲気からも虐待は否定的である。

 歯科治療における局所麻酔後に、唇を咬む事例はしばしば経験される。 本症では男児が登園後に、上唇周囲の違和感から唇を咬み、引っ掻き、鼻をいじったと推測される。最も使用されている歯科用局所麻酔剤は、歯科用リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射剤であり、投与状況にもよるが作用時間は1〜2時間である。投与後の口腔内咬傷の危険性については添付文書にも記載されており、 子どもに投与した場合、保護者に十分注意を促す必要がある。本症で母親が十分説明を受けたかどうかは不明であった。この危険性を軽減する目的で、治療内容によって、血管収縮剤を含まず、作用時間の短い(30分程度)メピバカイン塩酸塩注射液が投与される場合も少なくない。

 また、原因不明の出血をみたら、必ず出血性素因についても疑う。 図3は以前勤務していた病院で、頬粘膜の血腫を主訴に受診された成人女性である。咬傷と思われたが、前腕にも出血斑(図4)を認め、精査後に特発性血小板減少性紫斑病の診断を得た。

図2 1週間後、痴皮は脱落(指で剥がしていた)
図2 1週間後、痴皮は脱落(指で剥がしていた)
図3 右粘膜の血腫が主訴の成人女性
図3 右粘膜の血腫が主訴の成人女性
図4 前腕の出血斑(矢印)
図4 前腕の出血斑(矢印)



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