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2017年8月号 歯肉の色調異常
1.ムーコル症(ムコール症・接合菌症)

 「ムコール症・接合菌症」とも呼ばれるが、現在は「ムーコル症」が適切な用語とされる。ムーコル症は、種々の接合菌による日和見感染型深在性真菌症の一つである。接合菌は血管侵襲性が強く、とくに動脈系の血管に侵襲し、しばしば血栓形成や大出血を引き起こし、病変部や周囲組織を壊死に至らせることで急速に進行する、予後不良な真菌症として知られる。発症例の大多数は、致死的転帰をとる。

 通常、真菌感染症の診断には、真菌の菌体成分であるβ-Dグルカンの血中濃度が、深在性真菌症の臨床的な活動性を定量的に表し、診断のみならず臨床の指標として有用であるが、ムーコルが原因菌の場合は細胞壁のβ-Dグルカンが乏しく、血清中のβ-Dグルカン濃度が上昇しないといわれている。血清学的マーカーがなく、培養検査では陰性であることが多いため、診断には病変部から採取した材料の検鏡や培養により、菌体を証明することが必要である。しかし、早急な対応が求められるムーコル症においては、臨床症状から推定し、有効とされている抗真菌薬(リポソーム化アムホテリシンB)の全身投与に踏み切る必要がある。頭頸部領域では副鼻腔から浸潤する鼻脳型があり、口腔外科領域で診断加療が必要とされた報告も散見される。

 本症例では、骨髄移植前に行ったパノラマX線写真撮影ならびに歯周基本検査による歯性感染症のスクリーニングにおいては、感染源となるような歯・顎骨の異常は認められなかった。

 また、移植前の副鼻腔CTでは、右上顎洞にあきらかな異常所見は認められず、血液検査においても真菌感染症を思わせるβ-Dグルカンの上昇はなかった。移植前の口腔管理時は、口腔内、右頬部に異常所見はなかったが、診察時には上顎右側の唇頬側歯肉が暗紫色に変化し、硬口蓋はとくに右側大口蓋動脈の走行に一致すると思われる範囲の粘膜が暗紫色に変化していた。口蓋粘膜の表層では、血流不良が疑われた。この動脈の走行に一致した内出血と粘膜表層の壊死が疑われるという所見から、ムーコル症が強く疑われ、加療開始となった。

 最終的には、後に生じた鼻翼基部の出血部、口蓋潰瘍部から真菌培養を行った。いずれも隔壁のない菌糸からほぼ90°で胞子嚢柄が分枝し、球形〜亜球形の胞子嚢を有する真菌が培養され(図4)、専門機関にてムーコル症の原因菌であるRhizopus microsporus var. rhizopodiformisと同定された。

図4 1週間後、痴皮は脱落(指で剥がしていた)
図4 培養された真菌。隔壁のない菌糸からほぼ90°で胞子嚢柄が分枝し、球形〜亜球形の胞子嚢を有している



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