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2018年11月号 「開口障害」
4.破傷風

 破傷風は、嫌気性グラム陽性桿菌Clostridium tetaniの感染によって生じる。感染経路としては、外傷の他に歯周炎や抜歯窩なども報告されている。しかし、感染経路が不明な場合も多く、本症例も爪白癬からの感染が疑われたが不明であった。
  症状は菌毒素によって引き起こされ、病期は4期に分類される。第1期(前駆症状期)は全身倦怠感や肩こりなどの症状、第2期(開口障害〜 痙攣期)は開口障害や嚥下発音障害、表情筋の緊張、強直による苦笑いのような特異的な顔貌(破傷風顔貌)など、第3期(痙攣期)は頸部硬直から全身痙攣、呼吸困難など全身症状がみられる。そして、第4期は回復期とされる。本症例の場合、当科受診時は第2期相当であった。
 破傷風菌の同定率は低く、時間もかかることから、臨床症状から診断を行わなければならないことが多い。初期症状〜第3期までの間はonset timeと呼ばれ、onset timeが48時間以内の症例は高い致死率を示すため、とくに早期の治療開始が必要である。治療は、抗破傷風免疫グロブリン(TIG)や破傷風トキソイド、ペニシリンGの投与、痙攣や呼吸循環の管理など専門的治療が必要であるため、専門医療機関への迅速な対診が不可欠である。また、光や音刺激で痙攣が誘発される場合があるため、無用な刺激を加えないよう注意が必要である。
 開口障害は炎症や腫瘍、外傷の他に、顎関節症、筋突起過形成症、顎関節強直症などで認められる。急性化膿性顎関節炎は、罹患した顎関節部の激痛と顎関節腔の拡大を認める。また、下顎は健側に偏位し、強い開口障害を呈する。顎関節症では、開口障害や咀嚼筋、頸部筋肉の圧痛を認めることがある。しかし、開口障害は開口域20mm前後の場合が多く、本症例のように3mmしか開かない場合は少ない。また、表情筋の緊張や発語困難を来すことはない。筋突起過形成症は筋突起が過長となり、開口時に頬骨と干渉して開口障害や頬部の違和感、疼痛を生じる。しかし、開口障害が突然生じることはない。パノラマX線写真や開口状態でのWaters法、CT検査などで筋突起が長く、頬骨との干渉が認められる。顎関節強直症は顎関節が癒着することで開口障害が生じる。顎関節の外傷や感染、中耳炎などが原因となるが、顎関節の癒着のみならず下顎の発育不全を来して、小下顎症を呈することがある。また、開口障害を患者自身が自覚することは少なく、歯科治療時などに指摘を受けて知ることが多い。下顎骨周囲炎は歯性感染がおもな原因で、咀嚼筋に炎症が波及すると開口障害を呈する。本症例では残根など感染源となり得るものは認められたが、局所の炎症所見はみられていない。
 現在、国内の破傷風患者数は年間100人前後とされるが、原因不明の開口障害を主訴に来院した際には、外傷の有無にかかわらず、破傷風も念頭において診断を行うべきである。



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