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2019年3月号 「歯肉の無痛性腫瘤」
3.メラノーマ

疾患の概要:悪性黒色腫(メラノーマ)はメラニン産生細胞より発生し、臨床的に黒色を呈する悪性腫瘍である。悪性度が高く、転移も生じやすいため予後不良になることが多い。なかでもメラニン組織を欠く無色素性悪性黒色腫は極めて稀である。
処置および経過:エプーリスの臨床診断のもと、局所麻酔下に抜歯と切除生検を行った。周囲の健常組織を含めて骨膜下で切除し、病変と周囲組織との癒着がないことを確認した。切除部分の歯槽骨に粗造感や異常所見は認められなかった。術後経過は良好であったが、念のためMRIによる画像検査を行った。その結果、左側顎下部にリンパ節の腫大が認められ、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示した(図4A、B)。病理組織学的診断では、切除物に大型の核と好酸性細胞質、軽度の異型性と多数の核分裂像がみられた。H-E染色ではメラニン色素産生は確認できないが、フォンタナ・マッソン染色では黒色顆粒状物質をわずかに認めた。また、免疫染色では多くの腫瘍細胞が強陽性を示した。この結果、無色素性悪性黒色腫と診断された(図5A〜D)。
 ただちに治療方針を検討し、全身麻酔下に左側上顎骨部分切除術および左側全頸部郭清術、DAV療法による化学療法を施行した。現在は再発なく経過観察中である。
考察:現病歴と現症からは歯肉炎や線維腫、エプーリスが強く疑われ、メラノーマとは考えなかった。とくに、歯の周囲に発生する無痛性で有茎性の腫瘤はエプーリスに多い所見であり、X線所見で異常な骨吸収像を認めなかったことも診断に苦慮した要因である。抜歯と切除生検時の所見でも、異常な骨吸収はみられず、悪性腫瘍とは考えられなかった。多少でも疑いをもち、MRIを先駆できれば、抜歯と切除生検を留まらせた可能性があったと考える。

図4 A:MRI T1強調像、B:MRI T2強調像
図4 A:MRI T1強調像、B:MRI T2強調像

図5 A:H-E染色、B:フォンタナ・マッソン染色、C:HMB45の免疫染色、D:S-100タンパクの免疫染色
図5 A:H-E染色、B:フォンタナ・マッソン染色、C:HMB45の免疫染色、D:S-100タンパクの免疫染色

【参考文献】
  1. )川原一郎,浜田智弘,金 秀樹,他:臨床的にエプーリス様を呈した上顎歯肉無色素性悪性黒色腫の1例.奥羽大歯学誌,37(3):137-144,2010.

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