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2019年11月号 「耳下部の腫脹と排膿」
3.外歯瘻

処置および経過:当科受診後、ただちにパノラマX線写真を撮影したところ、左下顎枝に智歯が存在しており、周囲の骨吸収も認めることから智歯周囲炎起因の外歯瘻を疑った。その後、局所麻酔下に口腔内より左下顎智歯を抜歯した。抜歯から1週間経過したところ、耳下部からの排膿は止まり(図5a)、2週間後には完全に閉鎖(図5b)が得られ、ゾンデなどの挿入は不可能となった。口腔内の創部も良好に治癒(図6)し、術後のCTで原因歯が完全に抜去されていることを確認した(図7)。
 外歯瘻は、顎骨の慢性化膿性炎症(歯性感染症)の排泄路としての瘻管が顎骨を穿孔し、顔面または頸部の皮膚瘻孔を形成する疾患である。皮膚瘻孔形成後は歯の症状を訴える患者は皆無に等しく、診断を困難にしている一因である。
 瘻孔の好発部位は、オトガイ部、顎下部、鼻翼であると報告されている。本症例は、下顎枝に埋伏した智歯周囲炎起因の耳下部外歯瘻であり、非常に稀有な症例であった。
 また、歯科領域の疾患ではあるが、病状の特異性から患者の60%以上が最初に皮膚科、一般外科、形成外科、耳鼻咽喉科など医科の診療科を受診することも当疾患の特徴である。このように、歯科以外の診療科を受診することが多く、歯性感染の関与を疑わないため、繰り返しの切除、生検、抗菌薬の長期投与など患者にとって不利益な対応を受けたという報告が散見される。本症例においても、近医耳鼻咽喉科から当院耳鼻咽喉科に紹介され、腫瘍性病変が疑われたため、耳鼻咽喉科医による組織生検が複数回行われてしまった。
 当疾患は、当然ながら皮膚病巣の切開、切除および抗菌薬投与などは無効であり、原因歯の抜歯を第一選択に歯科的な対応が必須である。さらに、外歯瘻と悪性腫瘍が混在していたという報告もあり、抜歯などの処置を行っても改善が乏しい場合は、すみやかに組織採取を行い病理組織診断を得るべきである。
 当疾患は、口腔内環境が改善した近年では比較的稀な疾患であるが、ビスフォスフォネート製剤などの骨代謝抑制剤が広く投与されている昨今、今後は増加する可能性がある。

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図5 抜歯後の左耳下部の所見
図6 抜歯から2週間後の
口腔内所見(矢印:抜歯創部)
図7 抜歯から2週間後のCT画像(矢印:抜歯窩)

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