歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
Top診断力てすと > 2021年5月号「鼻翼基部の腫脹、疼痛」

診断力てすと診断力てすと

2021年05月号 「鼻翼基部の腫脹、疼痛」
4.転移性上顎腫瘍

処置と経過:生検の結果、腺がんの病理診断を得たため、前医の病理検索情報との付き合わせより転移性腺がんの病理診断となった。PET-CTを含む各種画像検査や内視鏡検査により、胃がんの残存、他部位への転移は認められず、転移性上顎腫瘍に対して左上顎部分切除術(左鼻翼基部皮膚一部合併切除)を行った(図4)。
病理診断:HE染色では核の腫大と異型をみる低分化な腺がん細胞の集簇性浸潤を認め、腫瘍細胞の一部は胞体内の粘液産生が目立つ印環細胞がんの像を呈していた。また、異常印環細胞の細胞質内空胞にPAS染色陽性の中性粘液を認め、Alcian-blue染色陽性の酸性粘液を容れる腫瘍細胞も少数認められた。以上より、腺がん(未分化細胞がんおよび印環細胞がん)の病理診断となった(図5)。
解説:顎口腔領域の転移性腫瘍は口腔悪性腫瘍の約1%といわれており、比較的稀な疾患である。なかでも胃がんの口腔領域への転移は報告がさらに少なく、その転移部位は下顎骨がおもで、上顎骨への転移は非常に稀である。
 また、軟組織への転移は50%が歯肉で、他には歯槽粘膜、舌への転移が多く認められるとされている。一般に口腔領域への転移性がんは予後不良であるが、本症例については原発巣(胃)に腫瘍の残存はなく、他部位への転移を認めなかったため、積極的な治療(上顎部分切除術)を行った。
 今回、初診時の臨床所見からは歯性感染症でも矛盾しなかったが、胃がん術後であったことから、転移性腫瘍の可能性も考慮に入れつつ精査を行った。口腔転移の報告がある腫瘍のおもな原発臓器は、子宮、肺、乳腺、大腸、胃、腎臓、肝臓、前立腺、精巣、卵巣などであり、口腔内への転移の発見が原発腫瘍の発見に結びつく場合もあるため、日常臨床ではこれらを念頭におき、慎重な態度で診察・診断を行う必要がある。

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
図4 術中写真および摘出物写真
図4 術中写真および摘出物写真
図5 生検病理組織像(a、b:HE染色、c、d:免疫染色)
図5 生検病理組織像(a、b:HE染色、c、d:免疫染色)

<<一覧へ戻る
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド