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Q&A
小児歯科 (2013年9月号)
Q おしゃぶりの使用を減らす方法
●当院では、「おしゃぶりの使用は歯並びが悪くなる一因になります」と保護者に説明し、できるだけ避けていただいていますが、忙しいときは仕方がない面もあると思われます。何かよい対処方法はないでしょうか。
──茨城県・H歯科クリニック
A
  平成17年1月の小児科と小児歯科の保健検討委員会は、おしゃぶり使用の考え方として、(1)発語やことばを覚える1歳過ぎになったら、おしゃぶりのフォルダーを外し、常時使用しないようにする、(2)遅くとも2歳半までに使用を中止するようにする、(3)おしゃぶりを使用している間も、声かけや、一緒に遊ぶ等、子どもとのふれあいを大切にして、子どもがしてほしいことや、したいことを満足させるように心がける、(4)子育ての手抜きとして、利便性からだけでおしゃぶりを使用しないようにする、などの指針を出しました。このような指針を作成した背景には、筆者が、おしゃぶりが小児の歯列・咬合状態に及ぼす悪影響などを公表1〜3)したことが挙げられます。
  その結果、おしゃぶりを使用する小児はやや減少する傾向にあります。しかしながら、育児に不安がある母親たちにとって、おしゃぶりは格好の育児グッズのようです。実際、昨今の使用理由で最も多いのは、「ぐずったときにやむを得ず使う」であり、その他、「おしゃぶりがないと寝つかない」、「おしゃぶりをくわえさせておかないと家事ができない」、「おしゃぶりがないと外出時に泣いて周りに迷惑をかける」などといった利便性を求めるものが使用理由の上位を占めています。そして、半数以上の母親が「おしゃぶりは育児に役立った」という報告をしています。
  従って、おしゃぶりを必要とする母親には適切な使い方を指導するという柔軟な姿勢が求められています。ちなみに、筆者は、小児歯科医としてのアドボカシーという観点から、産学協同(コンビ株式会社)で“日本の子どもに見合ったおしゃぶり”を開発し、パッケージにも“生後18ヵ月までの使用”、“長時間、長期間の使用を避ける”などの注意点を記載させました。そして現在、不正咬合を誘発しないという検証を行っているところですが、平均使用期間が7.9ヵ月で、1日の平均使用時間が70分であり、生後24ヵ月までに中止した子どもたちの場合、歯列弓の形態や咬合関係に悪影響を及ぼしていないという結果を得ています。一方、円筒型のおしゃぶりは、同様の使用状況であっても、上顎歯列弓がやや狭窄し、上顎前突が発現していました。つまり適切な指導とは、(1)適切なおしゃぶりの使用、(2)1日1時間以下の使用、(3)生後24ヵ月までの使用、ということになると思います。
  なお、市販のおしゃぶりのなかには、「鼻呼吸を促進する」、「アゴの筋肉を鍛えます」、「出っ歯になりにくい」、「正常な乳歯の歯並び形成をサポートします」とパッケージに記載し、あたかも長時間の使用を容認するような製品もありますが、筆者の渉猟した論文のなかでそのようなエビデンスを実証しているものはありません。
  しかしながら、その一方でおしゃぶりを必要以上にくわえさせ、止めさせるのに一苦労したという話を聞きます。つまり、おしゃぶりに“精神的な安らぎ”を覚えてしまった小児の場合、その使用を中止させることは容易ではありません。そのような場合、次の心構えでアプローチすると好ましい結果が得られると考えます。
  まず、中止に向けての適切な時期は、(1)おしゃぶりを使用する頻度が減少してきたとき、すなわち、他の事象や物に興味が湧いてきたころ、(2)トイレの躾ができたり、服が着られるようになったり、自分で身だしなみができるようになったとき、すなわち、新しいことに対する学習意欲が旺盛な時期です。そしてアプローチの方法としては、(1)決して怒ったり叱ったりすることでやめさせない、(2)中止しなければならない理由づけを考えて諭す、(3)中止する日を前もって決め、次第に使用させる回数や時間を短くする、(4)噛むことが必要な物を与える、(5)やめると決めた日に中止させ(おしゃぶりを捨ててしまう)、代わりにご褒美をあげる、ということです。
  ただし、そのような指導を行う前に必須であることは、母親が自信をもって育児ができるように援助することや、適切な育児環境を整えていくといったアドバイスです。母親から子どもへの愛着形成がスムーズになるよう誘導すれば、子育ての代替物としておしゃぶりを使用する頻度や時間も減少し、その後は自然に無理なくおしゃぶりを卒業するのではないでしょうか。
  最後に、母乳で育てようとしている母親に対し、おしゃぶりを使用させることは避けてください。なぜなら、母乳育児の障害になるからです。そして、母乳栄養が順調に進行していれば、子どもはおしゃぶりも必要としないですし、指しゃぶりもしないという事実もご承知おきください。
【参考文献】
1) Yonezu T, et al: Effects of prolonged non-nutritive sucking on occlusal characteristics in the primary dentition. Dentistry in Japan, 41:107-112, 2005.
2) 米津卓郎,他:非栄養学的吸啜行動が小児の咬合状態に及ぼす影響に関する累年的研究.歯科臨床研究,2(2),50-57,2005.
3) Warren, JJ, Yonezu T, et al: Effects of oral habits’ duration on dental characteristics in the primary dentition. J Am Dent Assoc, 132:1685-1693, 2001.

米津卓郎東京歯科大学 小児歯科学講座

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