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Q&A
歯科一般 (2018年6月号)
Q 大規模災害発生時の身元確認方法
●大規模災害発生時の身元確認において、歯科医師として知っておくべき知識や注意点がありましたら教えてください。
──静岡県・Y歯科
A
大規模災害が発生すると、日本だけでなく、海外でも身元確認において歯科医師は大きな役割を果たすことになります。身元確認は、ご遺体をご家族のもとにお返しする大きな人道的行為であることはもちろんのこと、戸籍の抹消やご遺体の火葬・埋葬などの法的行為が可能となり、遺産相続や生命保険の手続きなど、残されたご家族の生活修復のためにも極めて重要なものとなります。したがって、大規模災害発生時の身元確認において、歯科医師は十分に冷静な判断のもと、行政や警察などの担当者と連携した対応が求められることになります。
 そこで、歯科所見採取の基本手技については成書を見ていただき、その他のポイントとして歯科医師が知っておくべき知識や注意点について、順を追って確認してみたいと思います。

1.大規模災害発生時
 ご遺体は、区市町村が設置する「遺体収容所」に搬送されることになります。その際、先生が所属されている都道府県歯科医師会や日本法医学会などの関連学会からの指示を仰ぎながらその対応にあたるのが原則となります。
 平時の犯罪捜査における身元確認では、個別に先生方が警察署から依頼され、個人で対応されることもあると思いますが、大規模災害では専門家グループの一員として身元確認作業に参加することになります。

2.身元確認作業の要請
現地対策本部などから各地区歯科医師会や関連学会に身元確認班の派遣が要請されると、一般的には1班につき歯科医師2名以上からなる身元確認班が組織され、遺体収容所にて責任者の指示のもと、歯科医師以外の専門家と協力して作業を行うことになります。単独で行動することはできず、身元確認班の一員として、常に責任者の指示や判断を仰ぎながら対応する必要があります。
 しばしば、ご遺族やマスコミから直接検査結果を求められる場合もありますが、単独の対応は控えるのが原則です。
3.身元確認における死後記録作業
 ご遺体は、収容所に順次搬入され、警察による検視と医師による検案を経たのち、身元が判明しなかったご遺体のみ死後記録採取が行われます。まず、ご遺体の写真撮影が行われますが、可能なかぎり、濡れたガーゼや歯ブラシなどを用いて、口腔周囲や口腔内を十分に清掃してから行うことが重要です。ただし、ご遺族によっては、収容所内の写真撮影自体にとてもナーバスになっている場合もあり、十分な配慮のもと、撮影する必要があります。
 死後硬直や焼死などで十分な開口が得られない場合、法的に口角にメスは入れられないことから、歯牙の破損に注意しながら、開口器や手の母指球を支えに可能な限り開口させます。照明が足りない場合には、携帯ライトなどを使うことも必要となります。所見に迷ったら歯科医師同士で確認し合いながら行うことが重要です。
 また、DNA採取のために抜歯を求められる場合があります。その際、未治療の第1大臼歯あるいは第2大臼歯が残存する場合には、十分なDNA量が回収できることから、これらを第一選択歯にするとよいと考えます。
 さらに、感染に対しては、ご自身のためだけでなく、ご遺体からご遺体や他の検査者への無用の伝播を防ぐためにも、平時の診療と同様に、可能なかぎり手袋を交換するなどの感染対策の配慮が必要と考えます。
4.その他
 東日本大震災では、ご遺体からの死後記録作成を担当したものの、ご遺体を見ることがつらく、しかしながらチームとして対応していたことから自分だけ抜けることができずに我慢し続け、その後PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまった歯科医師もおりました。ご遺体に対応するのは自信がないと思われる先生は、生前記録や照合作業を申し出て、配属させてもらうことも必要かと思います。
 誌面の関係で、十分な回答にはなりませんでしたが、平時の防災訓練や身元確認の机上訓練などの研修会参加も効果的であり、先生にとって有効な情報を得られるものと思います。

櫻田宏一東京医科歯科大学
大学院医歯学総合研究科 法歯学分野

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